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名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)23号 判決 1995年11月17日

原告

柴田満

柴田巧

長谷川好道

柴田司利

柴田一憲

柴田鈴江

岡田うら

柴田純義

柴田弘子

柴田志賀子

柴田義廣

柴田祐基

右法定代理人親権者父

柴田義廣

同母

柴田志賀子

原告

柴田聖弥

右法定代理人親権者父

柴田義廣

同母

柴田志賀子

右一三名訴訟代理人弁護士

後藤潤一郎

西野泰夫

斎藤洋

新海聡

荒川和美

江尻泰介

鈴木典行

北條政郎

被告

名古屋市吉根特定土地区画整理組合

右代表者組合長

北野錝二

右訴訟代理人弁護士

北場民男

右訴訟復代理人弁護士

鈴木雅雄

深井靖博

堀口久

主文

一  被告が平成二年五月二日付けでした別紙一「仮換地処分一覧表」記載の仮換地指定処分(原告長谷川好道及び同岡田うらについては仮換地変更処分)をいずれも取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

被告は、昭和五九年三月三〇日に土地区画整理法(以下「法」という。)二一条三項の規定による設立認可の公告がされた土地区画整理組合である。

原告らは、被告が施行する土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行地区内の土地について所有権を有する者であり、被告の組合員である。

2  本件処分の存在

被告は平成二年五月二日付けで別紙一「仮換地処分一覧表」記載の仮換地指定処分(原告長谷川好道及び同岡田うらについては仮換地変更処分。以下、これらを総称して、「本件処分」という。)をし、そのころ原告らはその旨の通知を受けた。

3  基準地積及びその更正(定款の定め)

被告の定款(以下「定款」という。)には、次のような定めがある。

『七一条一項 換地計画において、換地を定めるための基準となる従前の宅地の各筆の地積(以下「基準地積」という。)は、法二一条三項の規定による組合の設立認可の公告があった日(以下「基準日」という。)現在の土地登記簿に記載された地積によるものとする。

七二条 宅地の所有者又は所有権以外の権利を有する者は、前条の地積と実測地積とが著しく相違すると認めるときは、基準日から九〇日以内に実測図を添えて組合に地積の更正を申請することができる。ただし、同一人又は同一家族の所有地数筆が連続するときは、その全部について申請しなければならない。

2  前項の規定による地積更正の申請は、地積更正申請書(様式第1)に次の各号に掲げる図書を添えてしなければならない。

(1) 位置図(縮尺三千分の一以上のもの)

(2) 地積測量図(縮尺六百分の一以上のもの)

(3) 申請人及び隣地所有者の印鑑証明書

3  第一項の規定による申請があったときは、組合は、申請人又は申請人及び関係土地所有者の立会いを求めて、当該申請に係る宅地の地積を査定し、その地積が前条の基準地積と相違するときは、その基準地積を更正することができる。

4  組合は、前条の基準地積が明らかに事実に相違すると認める宅地又は特に地積について実測する必要があると認める宅地については、その宅地の所有者及びその宅地に隣接する宅地の所有者の立会いを求めて、その宅地の地積を査定してその基準地積を更正することができる。』

4  原告らの地積更正申請

(一) 原告柴田司利は別紙二「原告物件の査定一覧表」記載の土地番号8、10ないし13、15、19及び20の土地(以下、個々の土地を「8の土地」のようにいう。)につき、原告柴田純義は23ないし28の土地につき、原告柴田純義・同柴田義廣・同柴田志賀子は29の土地につき、原告柴田純義・同柴田義廣・同柴田志賀子・同柴田弘子は30の土地につき、原告柴田純義・同柴田祐基は31の土地につき、原告柴田純義・同柴田弘子は32の土地につき、原告柴田純義・同柴田祐基・同柴田聖弥は33の土地につき、原告柴田義廣・同柴田志賀子は34ないし36の土地につき、原告柴田弘子は37の土地につき、それぞれ定款七二条二項に定める様式第1の地積更正申請書(以下「申請書」という。)を提出しなかった。

(二) その余の別紙二記載の土地については、当該土地を所有する原告らから定款七二条一項に定める期間内に申請書が提出された。申請に係る地積は、別紙二のc欄に記載のとおりである。

また、原告らの申請書の添付書類の状況は別紙三「定款72条2項の書類提出状況」記載のとおりである。

(三) 原告らの土地の登記簿上の地積は、基準日以前のそれが別紙二のa欄記載のとおりであり、基準日後のそれが同b欄記載のとおりである。

5  査定方針

被告は、昭和六一年六月一一日及び同年七月四日開催の役員会において別紙四「申請土地の査定方針」(以下「本件査定方針」という。)を定め、これに基づいて、地積更正申請をした組合員に対して査定増加地積を定めた上、本件処分をした。

6  役員カット

被告は、別紙二のⅰ欄記載のとおり、原告らの土地につき「役員カット」として基準地積を一パーセント減じて本件処分をした。

二  争点(本件処分の違法性の有無)に関する当事者の主張

1  原告ら

(一) 違法な事業計画に基づく違法

(1) 本件事業の事業計画概要(以下「概要」という。)によれば、整理施行前後の地積は次のように構成されている(単位・平方メートル)。

施行前   施行後   差

①公共用地 一四万三七七六 六二万二六四二 四七万八八六六

②宅地 一七九万一九三六 一二三万六七四二 五五万五一九四

③保留地     〇 二七万五六一六 二七万五六一六

④測量増 一九万九二八八    ― ―

②と④合計 一九九万一二二四 一二三万六七四二 七五万四四八二

(2) 整理前宅地地積の総体は、一七九万一九三六平方メートルに測量増一九万九二八八平方メートルを加算した一九九万一二二四平方メートルであり、これが整理後宅地地積一二三万六七四二平方メートルとなるのであるから、換地率は62.1096パーセント(減歩率は37.8904パーセント)となるはずである。ところが、概要においては、整理前宅地地積として測量増の六〇パーセントに当たる一一万九五七三平方メートルしか加算されておらず、残りの七万九七一五平方メートルは「隠された数字」として法的手続を経ることなく公共用地に取り入れられている。

「測量増」はもともと整理前宅地所有者の所有権に帰属する土地面積であるから、概要における計算は、故意に約八万平方メートルもの土地を隠蔽して減歩計算を行い、これを公共用地として「ただ取り」するという違法なものである。

本件処分は、このような違法な事業計画に基づいてされたものであるから、違法である。

(二) 原告らの適式な地積更正申請を無視した違法

(1) 被告は、原告らの地積更正申請手続が満足できるものではなかったので却下することもできた旨主張するが、これは定款七二条の規定、特に同条二項三号の「申請者及び隣地所有者の印鑑証明書」の文言を「全隣地所有者」を指すものと誤って解釈した結果であり、不当である。すなわち、同条三項は、立会いを求める当事者の範囲につき、「申請人」だけの場合と「申請人及び関係土地所有者」の場合とに分けて規定している。前者が全隣地所有者の同意に基づき印鑑証明書の添付がされた場合を指し、後者の「関係土地所有者」が隣地所有者のうち印鑑証明書を提出しない者をいうことは明らかである。また、全隣地所有者の印鑑証明書の添付が必要であるということになると、たまたま隣地の全所有者が印鑑証明書を交付した場合に限り、地積更正の申請をすることができるということになるから、地積の決定という重要な事項が印鑑証明書の添付という偶然の要件に左右されることになるが、このようなことは、憲法二九条、一四条に違反した財産権の不当な侵害というべきである。さらに、境界は争わなくとも印鑑証明書を交付しないという者が多くいる現実からすると、定款七二条の規定を全隣地所有者の印鑑証明書の添付が必要であると解釈することは、右規定を意味のないものとすることになる。したがって、「隣地所有者の印鑑証明書」は境界確認を認めた隣地所有者の印鑑証明書のみで足りるものと解すべきである。よって、原告らの地積更正の申請はすべて適式である。

なお、組合設立の過程において、設立を推進する立場の発起人会又は名古屋市の土地区画整理担当職員らは、「組合で地積更正をする。」「隣地所有者の承諾が取れない者のために定款七二条の規定を設ける。」「この手続に沿って申請をすれば、組合が現地立会いの上境界を定め(これが「査定」である。)、地積更正をする。」などと発言し、全部の隣地所有者から境界確認が得られなくても、組合において境界を査定して実測地積どおりに地積を更正することを説明、保証した。そうであるからこそ、原告らは組合の設立に同意したのである。また、被告設立の推進役であったり、機関の地位にある者ですら、自らの地積更正の申請をする際に、全隣地所有者の印鑑証明書を添付していないし、被告自ら、組合員に対し、取れる限りの印鑑証明書を添付すれば足りる旨、文書で指示している。このような経過に照らせば、被告の前記主張は、到底許容することのできないものである。

(2) 被告は、「査定し得る余裕地積」(以下「査定余裕地積」という。)の範囲内でしか査定しないとの態度に終始し、原告らを初めとする多数の組合員が定款七二条に定める適式な地積更正申請をしたにもかかわらず、原告らに現地での立会いを求めて、境界を定め、地積を査定することをしなかった。このことは、定款七二条に違反する。

なお、被告は、当初、原告長谷川好道の地積更正申請については、添付書類に不備はないとしていたのに、その後、隣地所有者(共有者)の一部の者の印鑑証明書の添付がなかったと主張を改めたが、このことは、印鑑証明書の添付の有無が大した意味のないものであり、これが申請の適式・不適式を左右するものではないことを自ら暴露したものというべきである。また、被告は、原告柴田鈴江について、隣地所有者の境界確認書及び印鑑証明書の一部が欠けていた旨主張するが、右隣地所有者とは、同原告の土地の南東角が一点(線ではない。)において接するにすぎない土地の所有者である木全千鶴子・木全由松をいうのであって、右の書類は境界を確定する上で全く必要のないものであるから、これを添付することは不要というべきである。

(三) 違法な本件査定方針に基づく違法

(1) 本件査定方針の決定手続の違法

本件査定方針は、定款上存在しない「役員会」において決定されたもので、違法な手続によって定められたものであるから、無効である。

(2) 本件査定方針の根拠の欠如

事業計画で定められた更正地積一九一万一〇〇〇平方メートル余の地積は、測量増一九万九〇〇〇平方メートル余(昭和五八年四月の概要の時点)のうち、地積更正の手続をとる者がおよそ六〇パーセント程度であろうとの予測に基づき、これに登記簿上の地積を計算上加算したいわば予定的数値にすぎないものであるから、「査定」に限界を画するための数値とはならないものである。すなわち、事業計画において示される減歩率は、真の整理前宅地の地積が未定の段階における予想減歩率であるに止まり、地積更正の手続をとる者が予測より多い場合には、減歩率は上がり、少ない場合には下がるべきものである。したがって、被告が査定余裕地積なる概念を持ち出して、原告らの地積更正の申請につき査定をすること自体到底容認されないことである。

(3) 本件査定方針の内容の違法

① 本件査定方針1号

官民境界における隣地所有者としての官地証明は、もともと公共団体の事務である。土地区画整理組合が設立された段階から公物管理の権限を移管されるため、組合が官地証明をすることになるが、それは公共団体の事務として証明しているにすぎないのであって、組合が便宜的に取り扱ったとの実質を有するものではない。また、官地証明によって官民境界が確定するからといって、組合が好意的取扱いをしたことになるものでもない。

次に、組合役員は、区画整理事業推進のために職務を遂行すべき定款上の義務があるが、この事業は役員のために行われるものではないから、役員であるからといって、不利に査定されるべき理由はない。

② 本件査定方針2号

地積更正登記手続には、隣地所有者の承諾書(実印を使用し、かつ、印鑑証明書を添付したもの)が必要であるところ、組合員は、被告に対して定款七二条による地積更正申請をすれば被告によって地積更正がされると信じていたため、法務局に対する地積更正登記手続をしなかったか、又は、被告に承諾書原本の返還を求めたが、被告がこれに応じなかったため、右登記手続をすることができなかったものである。このように、隣地所有者の承諾が得られたのに右登記手続ができなかったことには、被告自身に責任がある。ところが、その責任を転嫁し、右登記手続未了による不利益を原告ら申請者に帰せしめる本件査定方針は、何らの合理性もないし、また、査定率についても合理的根拠が見い出せない。

③ 本件査定方針3号

定款七二条では、「申請人などの土地関係者の立会いを求めて」とされており、現地立会いの上で隣地との境界を定めて基準地積を更正すべきものとされているのに、被告自身が定款の右規定に違反して地積更正をしなかった、その結果を申請者の不利益に帰するものであって、合理性が全くない。また、査定率についても、地積の多い土地がより多く削減されることを正当化する余地はなく、恣意的かつ不正常な方針というべきである。

④ 本件査定方針4号

「太鼓ケ根の一画」につき、総枠だけを定めるにとどめ、査定基準も定めないで査定するとすることは、合理的根拠を欠き、被告の恣意的判断を認めること以外の何ものでもない。

⑤ 本件査定方針5号

地積更正の申請がないにもかかわらず「査定」を受けることのできる定款上の根拠がない。

(四) その他の違法

被告は、原告柴田司利、同柴田純義、同柴田義廣、同柴田志賀子、同柴田弘子、同柴田祐基及び同柴田聖弥の単独所有又は共有に係る各土地について、別紙二のⅰ欄記載のとおり「役員カット」という理由により、その各一パーセントを減じた面積を基準地積として本件処分をした。

右は、法令上、定款上何らの規定がないにもかかわらず、役員(理事)であるとの理由で、地積更正の申請すらしていない土地についてもされたものである。また、原告柴田司利及び同柴田純義は、一時、被告の理事に就任していたが、本件処分時にはいずれも理事を辞しており、さらに、前記原告らのうち右二名を除く原告らは、理事に就任したことさえない。

このような法令等に基づかないでされた本件処分は違法である。

(五) よって、原告らは、本件処分(仮換地変更処分については旧処分を取り消した部分を除く。)の取消しを求める。

2  被告

仮換地指定が違法か否かは、法八九条の照応原則に適合しているかどうかによって定めるべきであるところ、本件の従前地と仮換地との関係は、いずれも照応原則に適合しており適法である。右の適法性は、照応原則の一基準である「地積」を算定するための本件査定方針だけで左右されるものではないが、原告らの主張に対応して、以下のとおり主張する。

(一) 「違法な事業計画に基づく違法」について

(1) 1(一)(1)の事実を認める。しかし、地積についての議論は事業計画書によってすべきである。これによると、次のようになる(単位・平方メートル。平方メートル未満切捨て)。

施行前   施行後   差

①公共用地 一四万三七七六 六二万二六四二 四七万八八六六

②宅地   一八〇万二〇七三 一二三万六七四二 五六万三三一

③保留地    〇 二七万五六一六 二七万五六一六

④測量増  一八万九一五一    ― ―

②〜④合計 一九九万一二二四 一五一万二三五八 四七万八八八六

(2) 1(一)(2)の主張を争う。測量増の四〇パーセントについては、更正地積としないで公共用地分とすることは明示してある。原告らの主張は、測量増が宅地所有者のみに帰属するとの誤った前提に立つものであって、失当である。

(3) 1(一)(3)の主張を争う。

(二) 「原告らの適式な地積更正申請を無視した違法」について

1(二)の主張を争う。定款七二条一項に定める期間内に六七名の組合員から一五一筆(後に二筆につき取下げあり)について地積更正の申請があった。原告らの申請は、添付書類が完備していなかったので、これを却下することもできたが、被告は、却下しないで定款七二条三項及び四項の実測による地積の査定をしようと努力した。しかし、立会依頼の方法、立会いに要する費用の負担等について申請者と合意に達しなかったため、実測による地積の査定は実現しなかった。そこで、実測によらない合理的な方法として、本件査定方針を定めることとしたのである。

(三) 「違法な本件査定方針に基づく違法」について

(1) 本件査定方針の決定手続

1(三)(1)の主張を争う。被告においては、監事が事業の執行状況を把握できやすいように理事会に出席させてこれを「役員会」と称しているが、決定は理事がしている。そして、被告の定款一一条において、理事は理事会を構成し(一項)、組合の業務執行は理事の過半数によって決する(二項)ものとされているのであるから、本件査定方針の決定手続には何らの違法もない。

(2) 本件査定方針の根拠

被告の事業計画を実質上作成した昭和五八年一〇月一日現在において、整理前宅地地積(登記簿上の地積)は180万2073.06平方メートルであり、事業計画で定められた更正地積は191万1508.92平方メートルであるので、査定余裕地積は10万9435.86平方メートルであった。

ところが、基準日である昭和五九年三月三〇日には、基準地積の合計は180万6900.44平方メートルとなった。そのため査定余裕地積は10万4608.84平方メートルとなった。

一方、更正申請地積の合計は26万1865.00平方メートルであり、当該土地の登記簿上の地積の合計は8万4172.64平方メートルであるので、増差地積の合計は17万7692.36平方メートルとなる。査定余裕地積の増差地積の合計に対する割合は0.58であるので、更正申請による基準地積の増加は、平均五八パーセント認めればよい計算になる。

しかし、これを一律に適用したのでは、基準日後とはいえ地積更正登記済の土地所有者(本件査定方針1号)、登記は完了していないが隣地所有者が承諾済の土地所有者(同2号)、隣地所有者が未承諾の土地所有者(同3号)、境界混乱地域の太鼓ケ根一画の土地所有者(同4号)、地積更正の登記をしたが定款七二条の期間内に申請をしなかった土地所有者(同5号)間に不公平が生ずるので、本件査定方針を定めてその間の調整を図ることとしたのである。

(3) 本件査定方針の内容

1(三)(3)の主張を争う。

① 本件査定方針1号

イの「公印(組合印)を使用して更正登記をしたもの」とは、例えば、地積更正申請がされた土地の中に隣地が道水路に接している土地があった場合には、定款七二条の二項三号の「隣地所有者の印鑑証明書」としては、本来、道水路管理者(市道であれば市長)の印が必要であるが、その代わりに「名古屋市吉根特定土地区画整理組合(長)印」をもって「官民境界証明願」の隣地所有者印としたのである。右の取扱いは、被告が便宜的・好意的な取扱いをしたものであるから、一〇パーセントのカットを当然と考えたのである。

ロの「組合の役員で更正登記をしたもの」を一〇パーセントのカットとしたのは、役員として、本件事業に率先して協力の姿勢を示すためのものである。

ハの「組合役員で公印を使用して更正登記をしたもの」とは、組合役員で組合印を使用して更正登記をした土地のことであり、イとロの重複であるので、八一パーセント(0.9×0.9)を認めることとしたのである。

② 本件査定方針2号

隣地所有者の承諾が取れたが更正登記を完了していない土地は、1号のイ、ロの一〇パーセントより多くの一五パーセントをカットするのが相当と考えたものである。

隣地所有者の承諾が全部取れていても、その中に公印使用のされている土地がある場合には、既に一五パーセントのカットがされているので、五パーセントをカットして80.75パーセント(0.85×0.95)としたのである。

③ 本件査定方針3号

「一万八四八五平方メートル(約三六パーセント)の範囲内で査定し」とあるのは、各増差地積を一律に二五パーセント認め、別紙四の別表1及び2を当てはめて査定した結果によるものである。

④ 本件査定方針4号

太鼓ケ根の一画は、別紙五の図面の赤線で囲まれた部分であり、この一画は、公図と現地とが一致しないいわゆる地図の混乱した地区である。

被告設立前の昭和四四年ころに地権者による任意団体が結成され、総地積を一〇万四〇〇一平方メートルとして、これをどのように配分するかの協議・調整が重ねられたが、未解決のまま、この一画を含めて被告が設立された。そして、被告が本件査定方針を作成するに当たりこの一画の外周を現況図等により求積したところ、概ね前記の地積であった。

ところで、全地区において本件査定方針1号ないし3号による査定増加地積は、次のとおり合計八万二九七八平方メートルとなる。

査定率% 面積m2

ア 登記済 公印使用(1号イ)

九〇 三四二九

公印使用役員(1号ハ)

八一

役員(1号ロ)

九〇}二七八一

その他(1号本文)

一〇〇 三万八二六二

イ 隣地承諾済(2号前文)

八五

80.75}二万〇〇二一

ウ 隣地未承諾 (3号)

三六 一万八四八五

(合計) 八万二九七八

右の八万二九七八平方メートルを一〇万九五六一平方メートル(全地区の査定余裕面積一〇万四六〇〇平方メートルに役員一律減査定分など四九六一平方メートルを加えた面積)から控除すると二万六五八三平方メートルとなる。

他方、太鼓ケ根の一面は、昭和六一年五月の登記簿の集計地積が六万九三六五平方メートルであり、これを前記の一〇万四〇〇〇平方メートルから控除すると三万四六三五平方メートルとなり、これに前記(2)記載の増差地積の還元率0.58を乗ずると二万〇〇八八平方メートルとなる。

前記二万六五八三平方メートルは前記二万〇〇八八平方メートルを上回るので、「太鼓ケ根の一画の申請地については、二万六五八三平方メートルの範囲内で査定する」こととしたものである。

⑤ 本件査定方針5号

地積更正登記がされている実績を認めるが、地積更正申請がないことに鑑み、一〇パーセントをカットするのが相当であると考えたものである。

(四) 「その他の違法」について

(1) 明文化された本件査定方針とは別に、昭和六一年六月一一日の役員会で、同日現在役員である者の従前地について、次の理由により、一律に一パーセントをカットすることが決定された。

① 基準地積の査定に長期間を要したことに対し、役員が襟を正し、率先的な姿勢を示すため。

② 余裕地積の範囲内で少しでも地積更正申請者に査定する面積を増加させるため。

(2) 右の従前地一パーセントカットの理由は合理的であり、かつ、法八九条の照応原則の枠の範囲内にとどまるものであって、この査定地積による仮換地指定は適法である。

(3) 原告柴田司利及び同柴田純義は、昭和五九年四月三〇日(設立総会時)から昭和六一年一二月一八日(辞任届けの告示の日)まで被告の理事であった。

別紙二記載の29ないし37の土地は、現在は被告の役員をしたことのない原告らの所有となっているが、被告設立時には原告柴田純義の所有であったので、役員カットをしたのである。

(4) いずれにせよ、一パーセントカットという僅少なカットは、照応原則・公平原則に違反するものではなく、本件処分は適法である。

(5) また、原告柴田司利及び同柴田純義は、一パーセントカットに同意している。

(五) 原告らに対する査定

原告らについての本件査定方針の該当番号は別紙二のe欄に、その査定率は同f欄にそれぞれ記載したとおりである。そして、右査定率を同d欄記載の増差地積に乗じて査定増加を認めた地積は同g欄に記載したとおりである。その結果、当初の基準地積である同a欄記載の地積と同g欄記載の地積との合計をもって同h欄記載の査定地積としたものである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件処分における従前地の地積の決定が適法なものであったかどうかについて判断する。

1  事実関係

証拠(甲九ないし四二、五四ないし五六、六二、七二ないし七四、乙一九ないし二一、三二ないし三五、乙三八の一、二、乙四三の一ないし四、乙四四の一、二、乙四五の一ないし三、証人柴田叡、同山口守彦、同戸田武四、原告柴田司利、同柴田一憲、同柴田純義、同柴田満、被告代表者)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 名古屋市守山区大字吉根(以下「吉根地区」という。)においては、昭和四二年ころから土地区画整理事業を行うことが計画されたが、実測地積と登記簿上の地積に差のある土地が多かった。そこで、登記簿上の地積について更正登記を行うための測量が行われ、それによって境界が確定した土地は、更正登記が行われた。しかし、公図と現地が一致していないことなどから、境界を確定することができない土地も多く、それらの土地については、地積についての更正登記は行われなかった。

(二) 吉根地区の土地区画整理事業は、昭和五三年から、「大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法」に基づく特定土地区画整理事業として行うことが計画され、被告の発起人会が結成されて、発起人によって、同地区の地権者に対する説明会が行われた。これらの説明会において、被告の発起人の側は、「定款の案七二条四項(定款七二条四項)は、地積更正の申請を出したくても隣地所有者全員の承諾が取れない人に対して、組合が査定して認めれば基準地積を更正する旨の規定である。組合員ができる限り隣地所有者の承諾を得れば、後は、七二条四項を最大限生かす。」旨の説明をした。

また、被告の発起人は、昭和五八年に入ってから、被告組合設立に関する同意書を集めたが、その際、地積についての更正登記を行っておらず、土地区画整理事業における地積の取扱いに不安を持っている者に対して、右七二条四項により、組合が査定する旨の説明をして、同意を集めた。

(三) 昭和五九年三月三〇日に被告設立認可の公告がされ、その後、被告は、定款七二条二項に基づく地積更正の申請を受け付けた。そして、右公告の日から九〇日間に六七名の組合員が地積更正の申請をした。ところが、被告が、右地積更正の申請に対して、応答をしなかったため、右地積更正の申請をした者らは、昭和六〇年四月に地積更正申請者の会(以下「申請者の会」という。)を結成し、被告に対して、地積の確定を求めた。

被告は、同年八月二二日に、定款七二条二項三号の「隣地所有者の印鑑証明書」は隣地所有者全員を意味するとの解釈の下に、右地積更正の申請をした者のうち三五名に対して、同年九月三〇日までの間に申請書類の不備を補正することを求める通知を出した。そこで、右三五名のうち一部の者は、追加して書類を提出した。

被告は、昭和六一年二月一二日に、申請者の会に対し、同月から同年五月にかけて、所有者及び隣地所有者全員の立会いの下で、現地において、地積更正の申請のあった土地すべてについて地積の確定を行う旨の提案をした。これに対し、申請者の会では、同月二一日、被告に対して、隣地所有者の立会いは、境界確認書を提出していない者のみにすること、隣地所有者に対する立会いの依頼文は、境界の査定を被告が主体性をもって行うことを十分に考慮して作成すること等を内容とする要望書を提出した。被告は、同月二八日、右要望書に対して、隣地所有者全員の立会いが必要であること、被告から隣地所有者に対する立会いの依頼文は申請者の会の意見を聞いた上で再検討すること等を内容とする返答をした。そして、申請者の会は、被告と地積の確定について協議した。

同年三月、その協議において、被告は、A案及びB案を提示した。A案は、地積更正の登記がされた土地については、申請人及び図面作成者のみの立会いで現地で境界を確認し、地積を査定するが、それ以外の土地については、申請人、隣地所有者全員及び図面作成者の立会いの下に現地で境界を確認して、地積を査定して、現地において境界について隣地所有者全員の同意が確認できなかった場合には、登記簿上の地積による旨の案であり、一方、B案は、事業計画で定められた更正地積191万1508.92平方メートルから、昭和五九年三月三〇日現在の被告の施行地区内における従前地の登記簿上の地積の合計180万6900.44平方メートルを差し引いた10万4608.48平方メートルの範囲内で、被告が査定して、登記簿上の地積に対する地積の加算を認める旨の案であった。これに対し、申請者の会は、両案共に難色を示したので、被告において、右のB案を基本にこれを地積更正の申請者に有利に修正した折衷案を検討したが、折衷案は、被告内において賛成を得られなかった。

(四) そこで、被告は、昭和六一年六月一一日及び七月四日の役員会(被告の理事と監事による会)において、右のB案を基本とする本件査定方針を定め、これに基づいて地積の確定をし、本件処分を行った。

本件査定方針は、右B案における上限の地積一〇万四六〇〇平方メートルに、役員に対する一律一パーセント減等によって生じた四九六一平方メートルを加えた一〇万九五六一平方メートルを上限として、この範囲内に、本件査定方針1号ないし4号によって加算する地積の合計が納まるように定められた。また、本件査定方針において、名古屋市守山区大字吉根字太鼓ケ根の一画(以下「太鼓ケ根」という。)は、二万六五八三平方メートルの範囲内で査定することとされているが、この上限の地積は、右一〇万九五六一平方メートルから、太鼓ケ根以外の地区について本件査定方針に基づいて認められた地積の合計八万八九七八平方メートルを差し引いた数字である。

上限の地積が右のように定められたのには、次のような理由がある。すなわち、昭和六一年五月現在の太鼓ケ根の登記簿上の地積六万九三六五平方メートルを、現況図に基づいて求めた太鼓ケ根の地積一〇万四〇〇〇平方メートルから引くと、三万四六三五平方メートルとなり、これに、還元率0.58(右B案における上限の地積一〇万四六〇〇平方メートルを、組合員からの地積更正の申請において増加すべきものとして申請のあった地積の合計17万7692.36平方メートルで割ったもの)を掛けると、二万〇〇八八平方メートルとなるところ、この二万〇〇八八平方メートルは、前述の二万六五八三平方メートルよりも少ないので、太鼓ケ根については、二万六五八三平方メートルの範囲内で査定することとされたものである。

2  右1認定の事実に基づき争点について判断する。

(一) 定款七二条二項三号の「隣地所有者の印鑑証明書」の解釈について

定款の右規定において、地積更正の申請に「隣地所有者の印鑑証明書」の添付を要するとした趣旨は、地積更正の申請が正しいものであることの裏付けとして、隣地所有者が申請者主張に係る境界を承諾していることを証する書面を添付させることとしたものというべきである。このような「隣地所有者の印鑑証明書」の添付を要するとした趣旨からすると、ここでいう「隣地所有者」とは、隣地所有者全員を指すものと解することが相当である(前記1(二)認定の被告設立前の説明会における被告の発起人の説明も、「隣地所有者」の意義について、右のような解釈を前提としているものということができる。)。

原告は、定款七二条三項の立会いを求める者の範囲について、「申請人又は申請人及び関係土地所有者」と規定していることから、七二条二項三号の「隣地所有者」は、全員を指すものではない旨の主張(前記第二の二1(二)(1))をするが、地積確定のための境界の確認に当たっては、申請書に隣地所有者全員の印鑑証明書が添付されている場合であっても、当該隣地所有者の立会いを求めて改めて境界を確認することが必要な場合も考えられるから、定款七二条三項が規定する「申請人」のみを立ち会わせる場合について、原告主張のように、申請書に隣地所有者全員の印鑑証明書が添付されている場合のことであり、「関係土地所有者」を立ち会わせる場合の「関係土地所有者」とは、隣地所有者のうち印鑑証明書を提出しない者であると解釈するのは相当とはいえない。むしろ、定款七二条三項は、申請書に隣地所有者全員の印鑑証明書が添付されていることを前提として、そのような場合であっても、被告は、事案に応じて、申請人のみの立会い又は申請人と隣地所有者等の関係人と双方の立会いを求めることができる旨の規定と解すべきである。

また、原告は、定款七二条二項三号の「隣地所有者」は、隣地所有者全員を指すものと解すると、地積更正の申請が印鑑証明書の添付という偶然の要件に左右されることになるから、そのようなことは、憲法二九条、一四条に違反する旨の主張をする。しかし、隣地所有者全員の印鑑証明書の添付を求めることは、地積更正の申請の正確性を担保する方法として合理的なものである。また、定款七二条四項は、地積更正の申請が定款七二条一項、二項に定める要件を満たしていない場合であっても、被告が、従前地の地積を実測地積によって定めることができるものとして、そのような場合について配慮しており、希望する者について、実測地積により地積の更正を行うことを可能としている。したがって、定款七二条二項三号の「隣地所有者」を隣地所有者全員を指すものと解したとしても、憲法二九条に違反するということはできない。また、右に述べたところからすると、定款七二条二項三号の「隣地所有者」を隣地所有者全員を指すものと解したとしても、隣地所有者全員の印鑑証明書を添付しない申請者に対する不合理な差別が生ずるということはできないから、憲法一四条に違反することもない。

さらに、原告は、定款七二条二項三号の「隣地所有者」を隣地所有者全員を指すものと解すると、定款七二条の規定が無意味なものとなる旨主張するが、隣地所有者全員の印鑑証明書を取得することが一般的に不可能又は著しく困難であるということはできない(右1認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、現に地積更正の申請をした六七名の組合員のうち補正通知を受けた三五名を除く三二名については、隣地所有者全員の印鑑証明書を取得したものと認められる。)から、右主張を採用することはできない。

なお、証拠(甲三五、被告代表者)によると、地積更正の申請の事務を担当していた理事(現在の被告代表者)自ら、隣地所有者全員の印鑑証明書を添付していない地積更正の申請をしていること、昭和五九年五月一九日付けで被告発起人会地積更正関係世話人会名義で出された「区画整理区域内の地積更正に関する打合せ会について」と題する書面には、「測量を完了された方は、隣接地の境界確認書を印鑑証明書付きでいただいてください(確認書がいただける方のみ)。」という記載があること、以上の各事実が認められる。しかし、(1)右1(二)認定のとおり、被告の設立前から、被告の発起人は、定款七二条四項により職権で地積の更正を行う旨の説明していたこと、(2)右1(四)認定のとおり、被告は、地積更正の申請があった土地については、定款七二条一項及び二項の要件がない場合であっても、書面査定という方法ではあるが、現に地積の更正を認めていること、(3)前示のとおり、被告の発起人は、定款七二条二項三号の「隣地所有者」が隣地所有者全員を指すものであることを前提とする説明をしていたこと、(4)右1(三)認定のとおり、被告は、定款七二条二項三号の「隣地所有者」は隣地所有者全員を指すものであるとの解釈を前提とした取扱いをしていたことを考え併せると、右認定の被告代表者の申請は、職権による地積の更正を期待したものと推認することができ、また、右認定の書面の記載は、職権による地積の更正を想定したものであると認められる。したがって、右の各事実を、定款七二条二項三号の「隣地所有者」は隣地所有者全員を指すものではないと解することの根拠とすることはできない。

(二) 原告らの地積更正の申請について

前記第二の一の4のとおり、本件処分の従前地のうち、原告らが地積更正の申請をした土地は、別紙三記載の各土地であり、それに添付された書類の状況は、別紙三のとおりであったことが認められる。

なお、証拠(乙一二の一ないし一八)と弁論の全趣旨によると、原告柴田鈴江の所有地(別紙二の4の土地)は、木全千鶴子及び木全由松所有の土地(字太鼓ケ根三二三五―六)と一点で接するのみであるが、そうであっても、木全千鶴子及び木全由松が隣地所有者であることには変わりなく、それらの者との間に争いがあれば境界が確定しないから、それらの者の印鑑証明書を添付する必要があったものというべきである。

また、原告長谷川好道の所有地(別紙二の38の土地)と隣接する土地(字釜ケ洞一六四二―六三、一六四二―六四)は、榛山稔外三名の所有であるところ、同原告は、地積更正の申請に際して、榛山稔の印鑑証明書は提出したが、他の三名の共有者の印鑑証明書は、提出しなかったものと認められる。しかし、証拠(甲七四)と弁論の全趣旨によると、同原告は、同原告の地積更正の申請当時その事務を担当していた理事(現在の被告代表者)から、共有者である場合には、その一名の印鑑証明書で足りる旨の説明を受けたため、榛山稔の印鑑証明書のみを提出したこと、被告は、同原告については、適法な地積更正の申請があったとの取扱いをしており、そのような前提で本件処分を行ったこと、以上の各事実が認められる。これらの事実からすると、被告が本訴において、同原告の地積更正の申請が定款七二条二項の定める隣地所有者全員の印鑑証明書の添付がなかった旨の主張をすることは、信義則上許されないものというべきである。

(三) 被告による地積査定の義務について

(1) 右(二)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告長谷川好道は、その所有地(別紙二の38の土地)について、定款七二条一項及び二項の規定に従った地積更正の申請をしたものと認められる。

ところで、定款七二条一項ないし三項は、本来地積は実測に基づいて定められるのが合理的であることから、希望者について地積を実測に基づいて定める途を開いたものである。このような規定の趣旨からすると、定款七二条一項及び二項の規定に従った地積更正の申請があった場合には、被告は、同条三項の規定に基づき、現地で申請人等の立会いを求めるなどして、地積を査定し、実測地積を確認することができたときは、地積の更正をすべき義務を負担しているものというべきである。

ところが、右1で認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、定款七二条三項の規定に従い現地で地積を査定することなく、本件査定方針に基づき、書面審査で、原告長谷川好道が所有する右の土地の地積を決定したものと認められる。このような地積の決定は、定款に違反した違法なものというほかない。なお、本件査定方針は、被告の役員会において定められたものであるが、そうであるからといって、それによる地積の決定方法が定款に違反する以上、当該地積の決定が適法になるものではない。

(2) 次に、定款七二条一項及び二項の規定に従った地積更正の申請がない土地(別紙二の38の土地を除く別紙三記載の土地)について、被告が地積の査定を行う義務があったかどうかについて判断するに、基準地積は、本来は実測地積によるのが合理的であること、右1認定の事実からすると、被告の施行地区内においては、実測地積と公簿地積との差が大きく、そのため、被告の設立前から従前地についての地積の更正が問題となり、被告の発起人は、定款七二条四項を最大限に生かして職権で地積の更正を行う旨の説明して、被告組合設立に関する同意を集めたこと、被告は、地積更正の申請が出された後、定款七二条一項及び二項の定める要件が欠けている地積更正の申請に係る土地についても、現地で地積を確定しようとしていたことからすると、本件において、被告は、定款七二条一項及び二項の規定に従った地積更正の申請がない場合であっても、少なくとも地積更正の申請があった場合には、定款七二条四項の「特に地積について実測する必要があると認める宅地」として、地積を実測により査定する義務があったものと解すべきである。そして、定款七二条の規定からすると、その場合の査定は、現地で関係者の立会いを求めて行わなければならないのであるから、本件査定方針に基づく書面による査定は、定款の規定に違反したものである。したがって、別紙二の38の土地を除く別紙三記載の土地について、被告が、本件査定方針に基づいて地積の決定をしたことは、違法であるというほかない。

(3) なお、被告は、定款に基づく地積の査定をしようと努力したが、立会依頼の方法、立会いに要する費用の負担等について申請者と合意に達しなかったため、実現しなかった旨の主張をする。しかしながら、定款七二条三項及び四項の規定によると、地積の査定は被告が行うもので、立会いの依頼も被告が行うべきものであることは明らかであるから、右1(三)認定のこの点についての地積更正の申請者らの要望は基本的には正当なものであり、他方、被告は、立会依頼の方法について、地積更正の申請者らの右要望に応えて再検討することとしていたのであるから、この点について合意に達することができないような対立があったと認められない。また、証拠(証人戸田武四、被告代表者)によると、申請者の側が、被告に対して、立会いに要する費用の負担を求めたことがあったことが認められるが、右1(三)認定の要望書にはそのことについての記載がないこと、証拠(証人戸田武四、原告柴田一憲、被告代表者)によると、立会いに要する費用について申請者の側と被告との間において具体的な話合いがされたことはないものと認められることに照らすと、この点についても、合意に達することができないような対立があったとは認められない。むしろ、右1認定の事実に証拠(原告柴田一憲)を総合すると、被告が、地積更正の登記をした場合を除き、境界について隣地所有者全員が現地において同意しない限り、登記簿上の地積による旨の主張をしたのに対し、申請者の側では、それでは、隣地所有者が一人でも立ち会わなければ、その者の印鑑証明書を添付した境界承諾書があっても、境界が確認できないとして登記簿上の地積によることになってしまうとして反対したために、合意に達することができなかったものと認められる。ところで、定款七二条三項は、前示のとおり、常に隣地所有者全員の立会いを要求しているわけではなく、事案に応じて、申請人及び隣地所有者等の関係人の立会いを求めることとしているのみである上、定款七二条四項は、宅地の所有者及びその宅地に隣接する宅地の所有者の立会いを求めることとしているが、境界の確定について隣地所有者全員の現地における同意まで必要としているものと解することはできず、また、実際にも、隣地所有者全員が立ち会って同意しなくとも、境界を確認して地積を査定することが可能な場合が十分にあり得ると考えられるから、地積更正の登記をした場合を除き、境界について隣地所有者全員が現地において立ち会って同意しない限り登記簿上の地積によるものとすることは、定款の趣旨に反し、合理性があるということはできない。したがって、地積更正の申請者らが、被告の右提案に反対したからといって、現地における地積の査定を不当に拒否したものということはできないのであって、被告が右のような案にこだわることなく地積更正の申請者らと話合いをしていれば、現地で定款に基づく地積の査定を行うことは可能であったものというべきである。

(4) また、仮に、現地で関係者の立会いを求めることなく、書面によって地積の査定をすることができるとしても、本件における査定は、次に判示するとおり合理的なものとはいえない。

(四) 本件査定方針の合理性について

そこで、本件処分に関与する限度で、本件査定方針が合理的なものであったかどうかについて判断するに、次のとおり、本件査定方針は、到底合理的なものということはできない。

(1) 本件査定方針1号ロ、ハ(別紙二の9、14、16ないし18の土地)について

被告は、組合の役員が本件事業に率先して協力の姿勢を示すために、組合の役員であることを理由に地積を減じた旨の主張をする。確かに、本件事業を円滑に遂行するためには、組合の役員が、本件事業に協力する姿勢を示す必要があるとも考えられるが、そうであるからといって、組合の役員であることを理由に、地積の確定において、個人の財産についてまで不利益に扱われる理由はないものというべきである。したがって、組合の役員であることを理由にその同意を得ないで地積を減じることには、合理性がないものというべきである。

また、証拠(証人山口守彦、同戸田武四)と弁論の全趣旨によると、被告が成立した後は、道路や水路の管理権で市などから被告に移管されるものがあり、それらのものについては、被告において境界につき証明することができること、本件査定方針1号イ、ハは、そのような場合に、被告が境界について証明した書類を使用して地積更正の登記をした場合には、基準地積を減ずる旨の規定であること、以上の各事実が認められる。しかるところ、被告が、その管理する道路や水路について境界を証明したとしても、それは、当然の職責を果たしたのみであるから、そのようなことを理由として、地積を減じることには、合理性がないものというべきである。

(2) 本件査定方針2号(別紙二の38の土地)について

本件査定方針2号は、地積更正の申請後地積更正の登記をした者と境界について隣地所有者全員の承諾があるが地積更正の登記をしていない者について差異を設けているが、定款では、地積更正の申請後地積更正の登記をした者と境界について隣地所有者全員の承諾があるが地積更正の登記をしていない者について特に区別を設けていない上、境界について隣地所有者全員の承諾があれば、被告において、現地における調査などによって、申請どおりの境界を確認して地積を確定することができる場合が多いものと思われるから、隣地所有者全員の承諾があるが地積更正の登記をしていない者を、地積更正の申請後地積更正の登記をした者と一律に差を付けるのは合理性がないものというべきである。

また、公印(組合印)を使用した土地について基準地積を減ずる理由がないことは、右(1)で述べたとおりである。

(3) 本件査定方針3号(別紙二の5ないし7の土地)について

① 証拠(甲一九、二〇、乙四四の一、二、乙四五の一ないし三)と弁論の全趣旨によると、本件査定方針3号において、上限の地積とされている一万八四八五平方メートルは、被告が本件査定方針1号ないし4号によって地積を査定する際の加算地積の上限とした一〇万九五六一平方メートルに基づいて、本件査定方針1号ないし3号による加算地積等を考慮して、定められたものであることが認められる。

ところで、被告が地積を査定する際の加算地積の上限とした一〇万九五六一平方メートルは、事業計画で定められた更正地積を基に定められたものであるが、証拠(証人山口守彦)と弁論の全趣旨によると、右更正地積は、定款七二条の規定により実際に実測地積が登記簿上の地積よりも多いことを確認することができる宅地の実測地積と登記簿上の地積との差異の合計が、被告の施行地区内の土地を測量することによって得られた施行地区内の土地全体の地積と施行地区内の公簿地積との差の一八万九一五一平方メートルのせいぜい六〇パーセント程度であろうとの予測に基づいて、その数値を宅地の登記簿上の地積の合計に加えたものであること、右予測には確たる証拠があったわけではないこと、以上の各事実が認められる。

また、証人戸田武四は、被告の施行地区内における道路、水路、堤等の公共用地と地積更正の申請をしていない者の宅地の実測地積と公簿上の地積との差の合計は、全体の実測地積と宅地の登記簿上の地積合計との差の四〇パーセントである旨の証言をするが、その根拠を何ら示していないから、右証言を信用することはできない。そして、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の事実からすると、被告が地積を査定する際に、一〇万九五六一平方メートルを、加算地積の上限とすることは、その根拠に乏しいといわなければならない。したがって、本件査定方針3号において上限の地積とされている一万八四八五平方メートルについても、その根拠に乏しく、合理性は認められない。

② 地積が広い者は、基準地積もそれだけ広くなるのが当然であるから、地積の大きさによって査定率を変えることには、合理性を見い出すことはできない。

(4) 本件査定方針4号(別紙二の1ないし4、21、22の土地)について

証拠(甲六一、原告柴田満)と弁論の全趣旨によると、原告柴田満及び同柴田巧が太鼓ケ根に所有している従前地(別紙二の1ないし3の土地)については、同原告らが地積更正の申請をした地積と登記簿上の地積の差の七〇パーセントを登記簿上の地積に加えた地積を基準地積としていること、原告柴田鈴江が太鼓ケ根に所有している従前地(別紙二の4の土地)については、同原告が地積更正の申請をした地積と登記簿上の地積の差の六〇パーセントを登記簿上の地積に加えた地積を基準地積としていること、原告柴田司利が太鼓ケ根に所有している従前地(別紙二の21、22の土地)については、同原告らが地積更正の申請をした地積と登記簿上の地積の差の三八パーセントを登記簿上の地積に加えた地積を基準地積としていることが認められる。

本件査定方針4号において上限の地積とされている二万六五八三平方メートルは、右一〇万九五六一平方メートルから、太鼓ケ根以外の地区について本件査定方針に基づいて認められた地積の合計八万二九七八平方メートルを差し引いた数字であるが、右一〇万九五六一平方メートルに根拠が乏しいことは、右(3)①で述べたとおりであるから、右二万六五八三平方メートルについても、その根拠に乏しく、合理性は認められない。

また、右の個々の土地についての基準地積の具体的な算出方法については、何ら主張立証がないから、それが合理的なものであると認めることはできない。

なお、証拠(甲四三の一、二、甲五一ないし五三、六三ないし六五、乙二二の一、二、乙二三、乙二五ないし二七の各一、二、乙二八ないし三〇、証人柴田叡、原告柴田満)と弁論の全趣旨によると、柴田久子は、太鼓ケ根に太鼓ケ根三二三六番一の土地とこれを囲む太鼓ケ根三二三六番二の土地を所有していたところ、太鼓ケ根三二三六番二の土地を有限会社丸洋商事外二名に売却した上、これらの太鼓ケ根三二三六番二の土地の所有者の承諾書を添付して、太鼓ケ根三二三六番の一の土地について、登記簿上の地積の更正の申請をし、認められたこと、その結果、太鼓ケ根三二三六番一の土地の地積は、右地積更正前には二九七五平方メートルであったが、地積更正後には二万六四六二平方メートルになったこと、太鼓ケ根に土地を有する他の組合員らは、右地積更正の登記は、柴田久子と有限会社丸洋商事外二名が馴れ合いで、真実と異なる地積更正の申請をしたのではないかとの疑問をもっていること、被告は、右太鼓ケ根三二三六番一の土地について、特段調査をすることなく、登記簿上の地積により仮換地指定処分をしたこと、以上の各事実が認められる。ところで、右地積更正の登記が登記簿上の地積を一〇倍近くにするものであることや右地積更正の登記がされた経緯などに照らすと、柴田久子と有限会社丸洋商事外二名が馴れ合いで真実と異なる地積更正の申請をしたのではないかとの疑問を持つことには、もっともな理由がある。それにもかかわらず、被告は、右認定のとおり特段調査を行っていない。被告が、右の土地について、調査を行い、定款七二条四項により真実の地積を査定する措置をとれば、太鼓ケ根における他の組合員が有する土地の地積の認定が大幅に異なるものとなる可能性がある。

(五) 役員に対する一パーセントカットについて

証拠(甲五六、乙四四の一、二、原告柴田純義)と弁論の全趣旨によると、昭和六一年六月一一日に開催された被告の役員会において、被告の役員が所有する従前地については、一律に一パーセント減じた地積を基準地積とすることが提案され、可決されたことが認められる。しかし、前示のとおり、組合の役員であるからといって、地積を減じられるべき合理的な理由は見い出し難いから、組合の役員であることを理由に、その個別的な同意を得ることなく基準地積を一パーセント減じることには、合理的な理由がないものというべきであり、右のとおり役員会が可決したからといって、それが許されるということはできない。

もっとも、証拠(甲五六、乙四四の一、二、原告柴田純義)と弁論の全趣旨によると、昭和六一年六月一一日に開催された被告の役員会の際に、被告の理事であった原告柴田司利と同柴田純義は、被告の役員が所有する従前地について一律に一パーセント減じた地積を基準とする旨の議案に賛成したことが認められる。しかしながら、原告柴田司利と同柴田純義は、右役員会において、被告の役員が所有する従前地について一律に一パーセント減じた地積を基準地積とする旨の議案に賛成したにすぎず、同原告らが、右役員会において、他の理事に対する取扱いいかんにかかわらず、同原告らが所有する従前地について一パーセント減じた地積を基準地積とすることを個別的に承諾したものと認めることはできない。

二 以上のとおり、本件処分に当たって被告が行った従前地の地積(基準地積)の認定は違法なものであるから、本件処分は、従前地と仮換地が照応しているということができない。したがつて、本件処分は、いずれも違法であるというべきである。

第五  総括

よって、本件請求はいずれも理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡久幸治 裁判官森義之 裁判官田澤剛)

別紙一、二、三、五<省略>

別紙四 申請土地の査定方針

昭和六一年六月一一日及び同年七月四日開催の役員会決定

査定は書面審査により次の基準を用いて査定する。

1 定款七二条第一項による地積更正申請後、法務局において地積更正の登記を了した土地については、下記のものを除き更正後の登記簿地積をそのまま査定する。

下記イ、ロの場合は地積更正前の登記簿地積より増加した地積の九〇%と査定する。

イ 公印(組合印)を使用して更正登記をしたもの

ロ 組合の役員で更正登記をしたもの

ハ 組合役員で公印を使用して更正登記をしたものは八一%と査定する。

2 隣地承諾が取られた申請地については増加地積の八五%、公印使用の土地については80.75%を査定する。

3 隣地承諾が完全に取れていない申請地については、その申請による増加地積五一、三〇三m2に対し一八、四八五m2(約三六%)の範囲で査定し、増加地積の一律二五%を認め、その残りの部分については、別表1及び別表2により査定する。

別表

1 一律25%以後の査定率表

500m2まで

50%

501m2から1,000m2まで

40%

1,001m2から2,000m2まで

30%

2,001m2から4,000m2まで

20%

4,001m2以上

10%

別表

2 隣地承諾率による乗率表

80%以上

1.0

60%以上 80%未満

0.9

30%以上 60%未満

0.8

30%未満

0.7

4 太鼓ケ根の一画の申請地については、二六、五八三m2の範囲内で査定する。

5 定款第七二条第一項の規定による申請なしで、地積更正の登記をした土地については、増加地積の九〇%を査定する。

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